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2012年4月18日(水)
環境エネルギー政策研究所 ブリーフィングペーパー

ドイツは自然エネルギーへのシフトを継続する

 

 ドイツの太陽光大手メーカーQセルズが4月3日から法的整理の手続きを進めており、大手の太陽光関連会社の倒産が相次いでいることから、ドイツの固定価格買取制度や自然エネルギーへのシフトの先行きに対する懸念の声が聞かれる。
 こうしたなかドイツ環境省は4月5日に研究報告書「長期シナリオ2011」を発表し、エネルギーシフトは達成可能であることを示している。報告書のなかでは、2030年までに自然エネルギーによる発電は化石燃料による発電よりも安価となり、2050年には電力87%を自然エネルギーからまかなうことができると結論づけている。
 本ブリーフィングペーパーでは、Qセルズを含むドイツの太陽光産業および固定価格買取制度への見解と、ドイツの長期の自然エネルギーへのシフトについて整理する。

Qセルズの法的整理および太陽光産業について

日経web版(4月2日) 「独太陽電池大手Qセルズ破綻 中国勢との競争で」
  • Qセルズは1999年に太陽電池の生産を開始し、太陽電池ブームを追い風に2008年に世界シェア首位に立ったが、中国メーカーなどとの価格競争が激化し、昨年太陽電池システムの価格が半減したことなどから赤字に陥っていたと指摘している。
  • 再生可能エネルギーの世界的な需要拡大を受け、スイスのザラジン銀行は2012~2015年までに年率2割のペースで拡大すると予測しているが、激しい価格競争は当面続く見通しで体力のないメーカーの淘汰が続く可能性があると紹介している。
  • Qセルズはドイツとマレーシアに約2300人の従業員と生産施設を持つドイツの再生エネルギー大手の一角である。またドイツでは2011年12月以降にソロンとソーラー・ミレニアム、ソーラーハイブリッドといった太陽電池大手がいずれも経営破綻したと報じている。同国の太陽電池メーカーは、政府による補助金削減に加え、生産能力を増強したサンテック・パワー・ホールディングスなど中国勢との競争激化で苦戦しており、中国企業の増産に伴い太陽光パネルは供給過剰状態が生じていると述べている。
  • 中部ドイツ新聞が同社の再建を独ザクセン・アンハルト州が支援する可能性があると同州のブラーヤーン財務相とのインタビューを引用して伝えている。
  • Qセルズはセル製造に集中したため、バリューチェーンの部門からの埋め合わせができなかったとしている。
  • 原料となるシリコンが一時的に品薄となり高価になったことも経営悪化の一因とされている。Wacker ChemieやHemlocといったシリコン製造業者とは高価格での長期納入契約を結んでいた。その後シリコンの価格が暴落した際に競合他社は非常に安く調達できたが、Qセルズは引き続き高額での購入を余儀なくされ競争力悪化の原因となった。マレーシアに工場はあったものの海外への大幅な移行はせず、ドイツでの製造を維持したことも競争力に影響しているだろう。
  • ドイツの産業政策の失敗と太陽光発電産業の計画の失敗のため、太陽光発電の買取価格引き下げを行っていなかったとしてもQセルズは同じ状況になっていただろうと報じている。またこれはモジュールメーカーの危機であり、自然エネルギーの危機ではないと述べている。これらからQセルズは太陽光モジュールに特化した大規模な企業であり、急激な市場環境の変化に対して国内事業のリストラ策などの対応が遅れたと考えられる。ドイツ大手の有力紙ZeitやFrankfurter Allgemeineは固定価格買取制度には触れていないことからも、買取制度の引き下げが破綻に決定的な影響を及ぼしたという見方は少ないと言える。
  • 福島の事故やエネルギーシフト(Energiewende)の発表があるにもかかわらず、ドイツの太陽光電池には将来性は小さい、と報じている。
  • ただし、太陽光関連の13万の雇用のうち直接雇用は約1万8千とされており、より多くの雇用は太陽光システムの設置やメンテナンスの分野で生まれているため、太陽電池の生産が完全になくなったとしてもこうした仕事は必要であると述べている。
  • さらに、インバーターメーカーのSMAソーラーのようなサプライヤーは依然として堅調であり、将来的には途上国に移行する可能性があるが、製造品の大半を輸出している企業が約100社あることも付け加えている。
  • 最後に、ドイツの消費者が支払った数十億ユーロは良い投資であり、発展の良い助けになったとしていることからも、固定価格買取制度自体を批判しているわけではない。
  • ドイツの太陽光発電産業協会にあたるBundesverband Solarwirtschaft(BSW-Solar)は表題のニュースを発表している。パネル生産では中国の影響から業界の整理統合が起こっている。一方で太陽光発電エンジニアリング、インバーターメーカー、部品メーカー、特殊ガラス、シリコン生産において高い輸出シェアをほこり、50以上の国際的な研究機関・大学も持っている。ドイツにおける重要なバリューチェーンとして太陽光発電の設置作業やプロジェクト開発、維持管理もある。今後もエネルギーシフトの先導者として役割と責任を果たしていくならば、これまでの投資はドイツ経済に貢献すると締めくくっている。
  • また同協会が2010年11月に発行した「太陽産業への道しるべ 2020年の太陽光ロードマップ」(Wegweiser Solarwirtschaft PV-Roadmap 2020)(ドイツ語)には2010年時点での13万人の雇用が記載されており、太陽光生産で1.8万人、関連工業で5.1万人、投資で4.3万人、その他で2.1万人としている。これは太陽光製造会社のみがドイツにとっての便益ではなく、幅広い産業において雇用を生み出していることを示している。
参考情報:
  • 2011年にドイツの自然エネルギー由来の発電量は1220億kWhで全発電量の20%となった。
  • 自然エネルギー由来の発電において太陽光は15.6%を占め、風力の38.1%に次いでいる。

図1:日本とドイツの太陽光発電導入量の比較(ISEP作成)
(棒グラフは単年度、折れ線グラフは累積の導入量。いずれも赤が日本、緑がドイツ)
 

ドイツのエネルギーシフトについて

環境省
  • 環境省はエネルギーシフトの見通しをだし、電力の87%を自然エネルギー由来とすることが可能としている。
  • 2011年の電力に占める自然エネルギーのシェアは20%であり、2000年の6.4%から3倍以上に達している。
  • 2011−2012の冬にはドイツからフランスへと電力を輸出することがあった。
各界からの意見(2012年2月のフリードリヒ・エーベルト財団主催のスタディツアーでの議論より)
  • エネルギーシフト(Energiewende)については労働組合や産業連合、議員と話す中でも反対の声は無く、国民の声や政治決定を尊重していた。決定前には多くの議論があったが、業界ごとの不利益を考えるのではなく、個別企業毎に機会とリスクを検討し、交渉をまとめていった。あるべき未来像から決定した決断を尊重する姿勢は現状の議論と真逆であり、重要である。
  • 固定価格買取制度に対しては急激な引き下げへの懸念があり、これまで雇用を生み出してきたことに対する評価、安定的な投資先としての自然エネルギー産業を創出した効果も強調されていた。
関連資料
 

■ このブリーフィングペーパーに関するお問い合わせ

認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)

E-mail: info01@isep.or.jp

URL: http://www.isep.or.jp/

TEL: 03-6382-6061

FAX: 03-6382-6062 
担当:飯田、山下
 

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